先日読んだ本の感想

と言う訳で一週間かけて読んだ「屍鬼」の感想。
 
事前情報としては「長い」「ホラー」「長い」「描写が濃厚」
「長い」「もう少し短く出来なかったのか」辺りを知っていた。
と言うか感想には必ず長いって出てくる。
 
でも実際読んでみると、15時間もあれば楽勝で読み終わる。
15時間と言ったらエロゲ一本分にも満たない長さ。
もうちょっと具体的に言うならFateFateルートと同じくらい。
(音楽聴きながらとかクリックの手間とか演出の時間を考えなければだけど)
さして長くない。
 
んで、まぁ一般的な小説だし(ラノベでは無いと言う意味で)
そこまでトンデモな展開とか無いだろうし、吸血鬼としか思えないこの展開も
実はただの疫病で、とか思っていたらガチで吸血鬼でびっくりした。
作中では屍鬼の名称で統一されていたけど、結局は吸血鬼。
 
まぁ馴染み深い存在だからそれは良い。
文章として特徴的なのは、作中劇として主人公の一人である小説家が書いた文章が
出てくるのだが、この文章が非常に難解と言うか、もう少し噛み砕けと言いたくなる文。
まぁ(読んだ事は無いけれど)そういう文体の本も当然あるんだろうからそれは良い。
実際、その部分は斜め読みでもそれほどシナリオを追うのには問題無かったし。
 
多少、その難文の所為でテンポがおかしくなるけれど、
全体としては非常にリズムよく読める文体で、小説を読む快感!と言う感じがひしひしと。
日本語が怪しい所も特に無いし、そこらの十把一絡げのラノベ作家とは次元が違う。
 
ミクロ的な内容としては、登場人物が非常に多い中で、ラノベ的なキャラ付けをしないため
誰が誰だか覚えきれないと言うのはちょっとキツい。
それこそメモを取りながらでも無いと大変辛い。
後半になるとサクサク人が死んでいくので、メモをしてもあまり意味が無いのだけど。
 
話は飛ぶけれど、自分は未だに人の死、と言うか葬式を体験した事が無い。
あえて言うなら大叔母の旦那さんと中学の時のクラスメイト(付き合い全くなし)が死んだくらい。
両祖父祖母は健在だし、それはとても良い事だと我ながら思う。
だから「誰かが死んで、登場人物がそれを悲しむ」と言うのが漠然としたイメージでしか把握できない。
この作品では、これでもか!と言うくらい人が死んで、その度に葬式を行う。
その度にぼんやりとした不安を抱く事になる訳だけど、この辺は他の人はどうなんだろうか。
直近で人死にを体験している人は、まず読まない方が良いだろうなぁとは思う。
 
とは思うけど、同時に「起き上がり」、死者の蘇生と言うテーマもあるので
その辺りは「人それぞれ」と言うアレな言い方しか出来ない感じ方になるんだろう。
考えたくないけれど、自分も誰かの死を経験した後なら、また違った感想が出てくるだろうし。
 
人が死んで、起き上がる可能性があるという事。
限られた選択肢の中でしか生きられない人と、その思考。
何か良くないことが起こっている時の、人と言う種としての反応。
共喰いと言う禁忌を余儀なくされた人の反応。
この辺りがみっちり綿密に書かれていたけど、こう言う題材を淡々とと言うか
ショック療法みたいなのを使わずに表現できるのは小説の良い所。
 
でもまぁ、少女(実年齢的には100歳前後)と言うオタ臭いネタをオタ臭く感じさせないのは流石。
一つの作品として完成されているし、読んでよかった。
 
文庫版の後書き(宮部みゆき)は心底蛇足だと思うけど。